パルコ歌舞伎「決闘!高田馬場」を観て

 また、小学生の社会科見学みたいなタイトルになってしまった。

 今回は全然コスメと関係ないので、ご興味のない方はパスで。お芝居の話である。

私はずっと歌舞伎ファンで、大学のときは歌舞伎を観るサークルに入っていたほど。好きな役者は中村勘三郎。襲名したばっかりでまだこの名前は、そのお父さんの方のイメージが強いけど。でも勘三郎の襲名公演をはじめ、ここ数年、全然歌舞伎を観ていなかった。芝居を観に行くのって、結構エネルギー要るのよね…。チケットとって、当日は都心の方まで行かないといけないし。テレビでたま〜に観るくらいだったかしら。

 先週、久しぶりに歌舞伎に行ってきた。といっても、歌舞伎の総本山・歌舞伎座(銀座)ではなく、渋谷のパルコ劇場に。渋谷は、若者の街すぎて、よっぽど用がないと行かないのだけれど、案の定、おそろしく若者だらけだった。
 パルコ劇場PARCO劇場で歌舞伎公演って初めてなのではないかな。今回の歌舞伎、なぜわざわざ足を運んだかというと、三谷幸喜さんが初めて歌舞伎の脚本・演出をされるというから。姉がもともと三谷さんと歌舞伎と両方好きで、気合を入れてチケットを入手してくれたのだ。私は大河ドラマ新選組!」で思いっきり三谷さんワールドに入ってしまったので(映像の三谷さんの作品はだいたい観てるけど、芝居は観てない)、その三谷さんが歌舞伎を書く、と聞いてワクワクした。反面、三谷さん大丈夫かなという思いもあったけど。ここ数年、勘三郎が三谷さんに歌舞伎を書けとラブコールを送っているのでいつか実現しないかなとは思っていたが、実はこのパルコ歌舞伎の企画は8年前からあったとか。今公演の主役、市川染五郎さんが持ちかけたのだそう。三谷さん×歌舞伎…さてさてどんな芝居なのか。

 染五郎は私と同世代で若いときから知っているので、私は染ちゃん染ちゃんと勝手に呼んでるけど、いつのまにか成長したんだなあ。共演は、勘三郎の長男・勘太郎勘太郎も、本当に赤ちゃんのときから知ってるけど(私ゃいくつだよ)、もうすっかり大人だ。新選組!で、ものすごくいい演技をしてたので、お父さん(勘三郎)ともども役者としてファンになった。そしてもうひとりは亀ちゃんこと市川亀治郎http://www.kamejiro.net/。亀ちゃんももう30歳…私が歌舞伎を観てない間にすっかり大人になってしまった。おじさんは有名な市川猿之助といえばわかりやすいかな。あとは、染ちゃんのお父さんの松本幸四郎のところの番頭さん的な存在・松本錦吾さんや、市村萬次郎さん、澤村宗之助さんなど、まあ、三谷さんが気に入りそうな役者さんばかり。もともと三谷さんの作品にはあんまりぴかぴかのお姫様・お嬢様は出てこないけど、この作品もやっぱりそう。萬次郎さんや宗之助さん演じる歌舞伎ならでは、の女形がきっと三谷さんのツボにはまったであろう。歌舞伎の女形ってお姫様とか花魁とかを想像するだろうけど、実は下町長屋の女房みたいな役柄もあってすごく面白いのだ。今回の三谷歌舞伎ではそれが完全にハマッていた。

 「決闘!高田馬場」というタイトルを聞いた時もびっくりしたなあ。堀部(中山)安兵衛の高田馬場の決闘のエピソードなんて、講談とか、歌舞伎とか、時代劇とか、そういうの観てる人じゃないと知らないけど(私は歌舞伎好きだったし、大学が高田馬場だったので知っていた。安兵衛が決闘前に立ち寄ってお酒を一杯飲んだという店も大学のすぐ近くにまだ残っているし。)、その世界では有名な話。それをどうやって三谷ワールドで表現するのか…。何もないところから話を作るのかと思っていたので、既存のエピソードを使うと聞いて、三谷さん勇気あるなあと思ったものだ。しかも聞けば三谷さんは歌舞伎をほとんど観たことないらしい。でも歌舞伎って、もともとはその時代その時代の先端を行く芝居であったわけだし、野田秀樹渡辺えり子さんみたいにいろんなジャンルの芝居の人が作・演出をするのはいいことだと思う。

 肝心の芝居の中身だが、ネタバレしない程度に書こうかな。もともとは安兵衛が叔父の決闘の助太刀をしに高田馬場へ行く、というエピソードなのだが、三谷さんはこの話を、安兵衛は飲んだくれのただの喧嘩好きなのに、なぜか人々が安兵衛を集まってくる、そして結果として高田馬場へ行くのを命を懸けて応援してくれる、それはなぜなのか、という点をクローズアップして表現していた。三谷さん得意の群像劇。大河ドラマ新選組!」も主役の近藤勇(慎吾ちゃん)のもとに、どんどん人が集まってくる様子を丹念に描いていてとても面白かったけど、やはり歌舞伎でも三谷さんのテーマは同じなんだなあとつくづく思った。
 それから演出について。三谷さんの芝居はあまりセットの変化とかはない(らしい)が、今回は歌舞伎の技法をふんだんに使って、視覚的な点もとにかく面白い。歌舞伎独特の廻り舞台(お盆)を有効に使ったり、ちょっと専門的になるが、ブレヒト幕とか現代的なものも取り入れていたり。でもこの辺のアイディアは歌舞伎の舞台監督さんや役者さんたちの阿吽の呼吸で作っていったのだろう。染ちゃん、亀ちゃん、勘ちゃん、みんないい役者になった。150分で一幕(要するに休憩なし)なんて、普通の歌舞伎では考えられないのだけれど、一気にみせた。心の底から拍手拍手。…なんて、偉そうだけど。でも、本当にラストは観客の皆さんのものすごい拍手で、すっごく感動した。あの割れんばかりの拍手の音。あれが聞きたいから、みんな役者やってるんだろうなあ。

 歌舞伎ファンも三谷ファンも両方のファンも全然芝居観たことない人も、それぞれ違った
見方で楽しめるのは間違いない。なんと3月25日にWOWOWで生中継するんだとか。興味を持った方でWOWOW見られるかたは是非是非ご覧になっていただきたい。

 なお、余談だが、私の観に行った日は、甲本雅裕さんが観に来ていた。ザ・ハイロウズ甲本ヒロトさんの弟さんである。もちろん雅裕さんもものすごくいろんな作品に出演されてる優れた俳優さんなので絶対皆さん見たことあると思う。ロビーでめざとく発見した私は、ミーハーなのでこっそりおいかけてしまったのだが、ハンチングかぶって細身のスーツですっごくかっこよかった。私としては、「新選組!」出演者の方を絶対観客席で見つけたいと思っていたので、ものすごく嬉しかった(ちなみに甲本さんは新選組隊士・松原忠治役を熱演)。同じ日に松本幸四郎さんも来てたらしいけど、昼の公演だったのかなあ。私は見つけられなかった(私が観たのは夜の公演)。他の日は松たか子とかも来てたみたい。あと、妹が観に行った日には加賀まりこもいたとか。さすがにいろんな役者さんが注目してるのね。
 そして嬉しかったのが、入り口付近で三谷さんご本人を目撃できたこと。三谷さんは自分の作品をよく見に来るというのは知っていたけど、ホントにいた〜!という感じで感激してしまった。三谷さんは、私が今まで見た有名人の中で、一番テレビに映っている姿と同じ人である、というのが目撃の感想。だいたい、テレビで観るより細かったり禿げてたり太ってたり綺麗だったり可愛かったりするのだけれど、三谷さんはテレビで見たまま。でも、噂通り、意外と背は高い。

 もうチケットは完売(当日券が出る日もあるが)なので、あんまり勧められないけれど、もしWOWOWが見られるなら25日の生中継は絶対見る価値あると思う。そのうちDVDにもなると思うけど。
 ああ、なんだか久しぶりにお芝居堪能。ああいう異空間に入るのは、なんだかとっても面白いものである。